男性型脱毛症とは
定義:男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia;AGA)と呼ばれる病態は、思春期以降に主に遺伝的背景を持って出現する進行性の「禿頭症」である。 症状の出現部位は、前頭から頭頂部が主体で一部後頭部の上方まで連続的に罹患することがある。この場合、「禿頭」と言っても、罹患部位の頭髪の軟毛化が主体である。また、重症な場合は頭部全体に軟毛化が生じる場合もある。円形脱毛症に関してはこちら
軟毛化とは:一般にそれぞれの頭髪は、2~6年周期で生え変わる。これを「毛周期」と呼び、活動期、退行期、休止期に分かれる。AGAではこの周期が短縮化し、太く長く成長しなくなることによって細く短い頭髪が増加する。軟毛化が進行すれば肉眼で観察できなくなり、あたかも禿げた状態に陥る。
診断:罹患部位に20%以上の軟毛が観察できればAGAと診断できる。
歴史:紀元前400年頃、ギリシャの哲学者ヒポクラテスは著書「Hippocratic Corpus」の中で「宦官に通風と禿はない」としていて、最古のAGAの記載である。その後、アリストテレスは「全ての動物のうち、ヒトは最も著明に禿げやすい動物である………。」と述べている。
1943年米国の解剖学者James B. Hamiltonは「男性型脱毛症はテストステロンを原因にして起こるが、禿頭となる素因は家系的に遺伝し、禿頭となるか否かは血中のステロイド量には関わらず、毛嚢のテストステロン感受性によるらしい。」と指摘している。しかし、現在ではAGAはDHTの作用が増強することによって結果的に毛周期の短縮化が起こることより発症すると考えられている。
疫学:日本では大阪大学皮膚科学板見教授の調査より、「成人男性1,260万人が薄毛を意識している」と報告している。他の調査では、白人はでは25~35%、東洋人は10~20%がAGAに罹患していると思われていて、人種差が大きい。
治療:2010年に日本皮膚科学会から「男性型脱毛症診療ガイドライン」が公表され、推奨度Aの薬剤として、フィナステリド内服(商品名プロペシア錠)とミノキシジール外用(商品名リアップ)が推奨されている。また推奨度Bの方法として、カツラの装着、自家植毛手術が挙げられている。他の育毛剤等の方法にはエビデンスが弱く推奨度は低い。注意すべきは、ミノキシジール内服治療はエビデンスが無く、未知の副作用も懸念されることより認容できない。
フィナステリド内服の治療効果については添付の私の書いた論文をご参照ください日本人に対する治療効果は欧米人より高く、副作用も少ないと報告しました。
参考:
AGAが遺伝するという根拠
症例:41才の一卵性双生児、成人後の仕事や生活環境が違うのに同様なAGAを発症し、プロペシア1mg錠の治療2年経過し、同様に改善した。
不適切な育毛行為が引き起こす危険性について
症例:63才一卵性双生児、兄は今まで育毛剤や育毛行為を行わなかった。弟は育毛マニアで今まで色々な育毛剤を試した、硬いブラシで頭部を叩くなどの育毛行為を行った。弟の方が明らかにAGAの進行が強く、回復も悪い。不適切な育毛行為はAGAを進行させ治療にも悪影響を及ぼすことが懸念される。
北里大学医学部再生医療形成外科学講座(寄付講座)特任教授
東京理科大学総合研究機構客員教授
横浜市立大学医学部形成外科学非常勤講師
インターネット
http://www.youtube.com/watch?v=f3ZgeSVY3A4
TV出演
主治医がわかる診療所・東テレ BBCでのロイター報道
著書